職業訓練センターで英語と算数漬けに。でも楽しいかな。
小学生の低学年のころの私は、成績表に『落ち着きがない』と何年・何学期にわたって書かれていました。
いわゆるわんぱくでいてやんちゃな生徒でして、よく先生に怒られていたものです。今思えば多動性だったのだと思います。とにかく勉強が嫌いで学校の成績は悪く、ケガばかりしていました。
小学校の高学年になって母が亡くなってからだいぶ落ち着きが出たのですが、勉強嫌いは治らず中学で英語や数学を習い始めると、初っ端から躓いて嫌いになってしまいました。
そんな私が50歳になった今、英語と数学(いや算数かな)をカナダで勉強しているのは不思議というか、深い業や因果応報があるような気がしています。
今現在、溶接や板金の職業訓練センターで朝8時半から12時までの座学を4週間の3週目を受講中です。(4週間経ったのちは8時半から16時までのフルタイムに変わり、座学ではなく実務トレーニングとなります)
同級生15名のうち、女性は2名。違う国のバックグラウンドを持つ人たち(約10か国という多国籍クラス)とまずは算数やブループリント(設計図)の読み方などを勉強しています。
センチメートルで慣れ親しんできたため、インチに慣れるまでがまず大変。
インチに直して考えさせる問題集を解いたり、インチは3/8(スリー・エイツ)など分数を多用したりするため、この年であらためて算数の基礎や分数の勉強をしなければなりません。
例えば、ちょっと以下の写真を見てください。
4番目の「If 8″ are divided by 4 and the quotient decreased by 3/32″, what is the final answer?」という質問を取り上げてみたいと思います。(このように文章問題にされると英語力と算数力を同時に試されているように感じます)
8÷4-3/32=という式になるわけでして、まず8割る4で2。2引く3分の32の計算となりますから、2を分母32に合わせて、分子は2×32=64。64/32-3/32=61/32=1と32分の29。 つまり、1 29/32という答えになります。
日本だと「いちとさんじゅうにぶんのにじゅうきゅう」と分母を先に読みますよね。それに慣れてしまっているから、「ワン アンド トゥエニーナイン(オーバー)サーティーセカンズ」という分子を先に言う読み方に慣れるまで少々時間がかかりました。ちなみにオーバー(=「ぶんの」を示す言葉)は使わないことが多いかな。
ほかにも、分数同士の割り算だと一方の分母と分子をひっくり返して掛け算にするとか、分数の分母を合わせなければならないときに、最小公倍数や最大公約数を頭の中で予測してから計算に取り組むことなどの前提を忘れていたため、もうつくづく学生の時にもっと勉強しておけば良かったと後悔しました。
一方、後悔ばかりではなく、学び直しの楽しさを味わえています。
大人になったからか、物事を多方面から見ることができることで理解力が高まりますし、知的好奇心は子どものころよりも増えているように思うのです。
「なるほど!そういうことだったんだ!」という気づきが何度かあり、問題が解けると楽しくなるんですよね。(集中力や持続力はだいぶ衰えたので、長くは持ちませんが)
また、今、小学生と中学生の子どもの勉強を教えていて、特に百ます計算の答え合わせをしているためか、計算が早くなっていました。
お陰様で今ではクラス内で「計算できる人トップ3」には入っています。(テストを先生に返却するのが早い人順という意味)
今思うと、日本の掛け算教育(例:ににんがし…)って本当に凄いですよね。
あのリズムと暗記方法があるから覚えていられるのであって、両隣のクラスメイトは掛け算で苦戦しています。掛け算で苦戦しているから分数なんて難解な問題になっていて私に聞いてくるのです。
あまりに何度も聞いてくるため、私が問題を解く時間がなくなってしまい「もっと自分で頑張ろうよ」と言ったのですが、もうなんて言ったらよいか初歩の初歩がわかっていないため、教えないと前に進めないのです。教育って本当に大事なんだな、特に日本の算数教育って本当に良かったのだなと実感しましたよ。
家で子ども達と『50歳になっても算数を使っていること』や『今まで勉強してよかったこと』などを話し合える良いきっかけになりました。
8時半から約10時までは計算問題を中心に解いて、15分の休憩をはさんで12時までは、ブループリント(=設計図・見取図)・リーディングというテキストを使い『設計図の読み方』を勉強します。
これを4週間平日に毎日行うわけなのです。
ある意味、これは試練ですよね。
計算や設計図の読み方が苦手な人は根をあげてドロップアウトしてしまいます(2週間経って、まだ一人しか辞めていませんが)これらのステップがあるから今まで書類選考や、説明会時の算数テスト、そして面接と、候補者を選別していたのかもしれません。そのプロセスを通り抜けてきた人でさえ苦労するのですから、現場に出ることの厳しさを垣間見ることができます。
「半径って英語でなんて言うんだっけ?」 (Radius。直径はDiameter)
「インチからミリメートルに変える時は、25.4をかけるだよね?」
「今、先生が言っていた「B.C」ってBolt Circleってこと?ボルトの穴の直径か~」
私を含めて英語が母国語じゃない人たちはクラス内で助け合っています。
英語のボキャブラリーの問題と、専門用語の問題があるため、私もついていくのがやっとな時があって、知恵熱が出て頭痛になってしまうほどです。
このトレーニングセンターに来るまでは、機材を使って作業や実務をこなしていけば大丈夫だろうなんて甘く考えていました。なぜなら、カナダグースに勤め始めたころは勉強なんて何もなかったし、すぐミシンという機材を使って縫うことに慣れれば問題ありませんでしたからね。
技術職というのは、技術だけではなく知識と安全に対する心構えが大切なのだと今、みっちり仕込まれています。
職場での安全という意味では、トレーニングセンターの時間内で資格を取らされました。
Workplace Hazardous Materials Information System(略してWHIMS)のテストはみんな合格しています。(←日本の危険物取扱者試験より断然簡単)
そのほか、オリエンテーションでは「重たい荷物はしゃがんで膝を使って持ち上げよう」、「腰だけで持ち上げようとすると腰を痛めるよ」とか、消火器の使い方や粉塵防護マスクの使用法なども職場での安全講習として習いましたよ。
ありがたいことに、これらの知識やトレーニングが無料で受けられ、さらにマニトバ政府からサポートのお金が出るのです。(詳しく家族の収入や出費を書き、それを審査してもらって支給額が決まります)
Employment Insurance (以下EI。失業保険)を得ている人という条件でこのプログラムに応募できたわけで、多くの生徒がEIで得られているお金+サポート金のおかげで安心して生活できています。
カレッジに高い学費を通って2,3年後に卒業して就職するという方法もありますが、もしEI受給者になった場合はこのような州政府がサポートする職業訓練プログラムを探してみることも次のステップに行くにはよい選択肢になるかもしれませんね。(カレッジ卒業したほうが断然初任給が良いですけど……)
この職業訓練プログラムに参加して約2週間が経ち、だいぶ新しい生活リズムにも慣れてきました。
これからも新しいことに緊張し、背伸びしながらも、知的好奇心を持って楽しんで学んでいけたらと思っています。
それでは、また。
P.S.もうすぐ8月が始まりますね。あなたにとって素敵な8月になりますように。