ウィニペグが舞台の映画『ユニバーサル・ランゲージ』が日本で8月29日から公開となります。
先月、映画配給会社のクロックワークスさんから突然メールがありました。
詳細をまとめますと、「マニトバ州ウィニペグを舞台にした映画が製作され日本でも公開になるため、ウィニペグ在住のボルさんにウィニペグの魅力や映画の感想も含めてパンフレットにコラムを書いてほしい」という嬉しいご依頼だったのです。
前のブログ記事にも書きましたがマニトバ州では映画撮影が盛んです。私も何回か撮影現場を目にしてます。

依頼を受けた映画は『ユニバーサル・ランゲージ』という映画なのですが、申し訳ないことに撮影現場を見たことも、撮影されていたことを聞いたこともありませんでした。

ユニバーサル・ランゲージのホームページに行ってみると、映画概要が書いてあります。(以下、抜粋)
『人は、関わりあうことをやめられない
本作で描かれているのは、ペルシャ語とフランス語が公用語となり、イラン文化が強く反映された架空のカナダ・ウィニペグを舞台に、ちょっとズレた人々が織りなす、すれ違いのファンタジー。監督が「この映画の主要なテーマの一つは“人に優しくすること” 」と語る通り、言語や文化、さらには自分と他人との境界も曖昧になって混沌とするウィニペグで、それでも相手と関わりあおうとする登場人物たちの姿勢は観る者の胸を打つことだろう』
もう、何が何だかわかりませんよねw。
ちょっとズレた人々?
ファンタジー?
ん? 架空のカナダ・ウィニペグって書かれているけど、ウィニペグって都市自体存在するの?架空なの?って思う人がいたらどうしようってw
予告編の動画がリンク先にあるのですが、ますます不思議な映画だと思わされます。
カンヌ国際映画祭で話題になった映画は賛否両論が激しいものが多いようで、この作品もそんな感じで好き嫌いが分かれるかと思います。
私はウィニペグ在住ブロガーとして映画配給会社の担当の方の目にとまり、コラムの執筆を依頼されたわけですから(高額な原稿料で感謝&恐縮しております)、文庫本のあとがきを書くライターのように、現地の実際の情報を織り交ぜながら『ユニバーサル・ランゲージの感想を約2800文字で仕上げてみました。
パンフレットに載ることになった文章は以下の通りです。(長文ですのでお時間がある時にお読みください)
****ここから****
「マニトバってどこの国?ウガンダの近く?」
「ウィニペグなんて都市、聞いたことないよ」
などと言われる、カナダでもマイナーなマニトバ州とその州都であるウィニペグ。
家族で移住して9年住んでいるが、いまだに大好きな街で、その魅力と実体験を毎週ブログで発信している。
ウィニペグの人口は約85万人(うち日本人はわずか約800人)で、ウクライナ系、先住民族、インド系、中国系、フィリピン系が多く、イラン系は2000人くらいだろうか。
ペルシャ語をウィニペグで聞いたのは、イラン人が経営する店でハラルフードについて尋ねた時だった。商品のことをずっとペルシャ語で説明されていると、やがてなぜか通じるというか、伝わってくるのが不思議である。豆類と香辛料を買った…いや、勢いで買わされたのだが、イラン・リヤルの通貨で支払わなければならなかったらどうしようと思わせるほど文化の違いを感じさせる店であった。
通貨といえば、作品内では「マニトバの父」と呼ばれるルイ・リエルが紙幣内の肖像になった500リエルという架空の通貨が氷の中に埋まっていた。マニトバ州にはルイ・リエルの日という祝日があり、英雄または狂人ともいわれていたルイ・リエルは確かにユニバーサル通貨になりうる存在であり、そんなシンボル的な肖像の紙幣が氷漬けにされている映像は、極寒で有名なマニトバをよく表していると感じた。
極寒の2月初旬はマイナス30度になる時があり、ここだけの話だが『外に置いて凍らせたバナナで釘を打ちたがるウィニペグ在住の年配の日本人』が多く見受けられる。
冬が長く厳しいからこそ、カナダ最大のファーストフードチェーンであり、もはやソウルフードにもなっているティム・ホートンズのコーヒーや食べ物は人気がある。ウィニペグにも80店舗くらいあり、さすがに店舗内で編み物をしている人はいないが、温かいコーヒーとドーナツを楽しむ常連客が多い。
ティム・ホートンズ以外に、ウィニペグで名物や名産があるだろうかと考えるが、なかなか思い浮かばない。七面鳥料理はサンクスギビングデーやクリスマスホリデーなどで家庭料理として出てくるが、北米らしい文化という感じで、特にウィニペグらしいわけではない。ちなみに、ウィニペグから車で2時間ほど西に行くと野生の七面鳥を見かけることがある。昨年も道路を歩いている数匹を間近で見たが、残念ながら脚にはメガネが絡まっていなかった。
観光地らしい名所も少なく、とりあえずウィニペグらしいお土産屋やレストランが数多く点在して観光客なら満足できそうなザ・フォークスというマーケットや、その近くにあるウィニペグが誇る『人権やその歴史を学べる世界で唯一の博物館(ヒューマンライツミュージアム)』がツアーとして成立しそうだが、観光ガイドが必要なほどのコンテンツではなく、余った旅行の日程で街並みのモダンさや壁の落書きアートを楽しむとか、郊外に出て自然公園でキャンプを楽しむなど、地味だけどマニトバらしさを探求する楽しみ方をする観光客も少なくない。
冗談のような話だが、ウィニペグ国際空港に到着したある男性が、タクシー運転手に「ウィニペグの見どころに連れて行ってくれ」とお願いしたところ、ポロパーク・ショッピングモールとポーテージプレイスに連れていかれたという寂しい逸話を聞いたことがある。買い物やフードコート、お土産屋くらいしか連れていけるところがないということなのだろう。
作品内でもポーテージプレイスが「ショッピングモールなのにウロウロしてはダメな場所」として描かれていた。平日に現地に行ってみるとあまりにも寂れていて、ホームレスが多く治安が良くないため、皮肉にもリアルでウロウロしたくない場所になっている。
新しく移住してきた人が社会保険番号を得るために手続きする【サービスカナダ】というカナダ政府の窓口機関がポーテージプレイス内にあるが、まさにその出入り口の真ん前に、作品内で観光案内されていた『枯れた噴水』があり、哀愁を誘う。家族が移住したばかりでサービスカナダで手続きをしていたころには高々と噴水が出ていたが、コロナの時期だったか、ポーテージプレイスの経営権が変わった時期だったかに噴水が出なくなってしまったようだ。水は豊富なはずなのだが……。
実はマニトバ州には湖が10万カ所以上あり水が豊富で、川が多く、水力発電も盛んである。アッシナボイン川とレッド川が合流するダウンタウンでは、数年に一度雪解け水による洪水被害に見舞われる。川の水位が上がり、橋桁には上流から流れてきた流木が折り重なる。そんな遠くから切磋琢磨されるがごとく研磨され、流されてきて表面がツルツルになった流木たちを見ていると、このウィニペグに流れ着いた自分たち移民のように感じることがある。
移住で大変な思いをしてこの地に定住し、寒い冬を乗り越えるたびに人々は一皮むけ、角が取れて優しくなり、連帯感のようなものが生まれるのである。
カナダの車のナンバープレート内のスローガンには、たとえばオンタリオなら「Yours to discover」とか、BC州なら「Beautiful British Columbia」などと書かれているが、マニトバ州は「Friendly Manitoba」と書かれていて、人々が優しくフレンドリーなところがマニトバらしさなのだ。
ウィニペグでは地下鉄や路面電車はなく主な公共交通機関がバスだけのため、バス内でフレンドリーらしい光景をよく目にする。ずっと隣同士で仲良く話しているから友達同士なのだと思っていたら、一人が降りてバスに残ったもう一人が他の人と話し始めて、さっきの人は全く知らない人だと言っていたのには驚きを通り過ぎてその誰にでもフレンドリーすぎるところに呆れることもあった。
よく耳を澄ましてそこかしこで自然発生する乗客たちの話を聞いてみると、ウィニペグ・ジェッツというプロアイスホッケーチームの試合について話していたり、雪かきで腰を痛めないようにジムで身体を鍛えているというような話をしていたりとどうでもよい内容ばかりなのだが、老若男女問わずどの人種でも話しやすい内容を選んで話しているようだ。これもどうでもよいことだが、ウクライナ系のお婆さんとバスの座席でガーデニングについてずっと話し合い「ズッキーニを育ててみなさいよ」と勧められた結果、我が家の裏庭家庭菜園にはズッキーニが仲間入りした。
この映画を観終わって感じるのだが、多種多様な国の人たちがマニトバ州ウィニペグという都市に移住してきて、冬を越すたびにフレンドリーなつながりをもてるからこそ、ウィニペグを舞台にした『ユニバーサル・ランゲージ』という映画が生まれたのではなかろうか?
そもそも、ユニバーサル・ランゲージとは公用語的なものという意味だけでなく、相手を思いやる優しい言葉や助け合いに使われる言葉のことを言っているのではないか?とも感じる。
なぜなら、極寒の地であってもなくとも、いつだって心の氷を融かせるのは人々の温かい心とその言葉なのだから……。
****ここまで****
いかがでしたでしょうか?
この作品がちょっと気になりましたか?
シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで8月29日から公開されます。
この作品を通じて、また私のコラムを読んでいただき、ウィニペグに興味を持つ人が増えたら嬉しいです。
何かウィニペグについての質問や、ご依頼がありましたら遠慮なくご連絡くださいね。
それでは、また。

