カナダでレイオフ(一時解雇)されたら。大変なことになっています。

3月21日(木)のランチ前。

総務部のスタッフが私に「ちょっと作業を中断して、三階の会議室まで一緒に行ってくれる?」と話しかけてきました。

このようなことは一度もなく、しかも他の人を呼ぶわけでもなく、私だけが連れていかれます。

会議室が空くまで他の会議室で待たされ、自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じます。

「それじゃ、この会議室に入って、あの椅子に座って」

案内されて入った会議室には、大きなモニターがあって、リモート会議のように他の人たちの顔が確認できます。ビッグボスと呼ばれる重役の顔もあり、緊張が一気に急上昇したのでした。

「この会議にリモートで参加している人の中にはユニオン(組合)の人もいます」と説明を受けるのですが、誰一人として笑っていません。どんよりと重たい空気が流れていて、警察の取り調べ室のような感じがしました。

このような時、自分にやましいことがないっていうのはありがたいことです。

懲戒解雇されるようなことはしていないし、むしろ上司から残業をお願いされるほど仕事量はあって、さらにエフィシエンシー(仕事達成効率)は100%を超えていましたから、卑屈になる必要がない時期だったのです。

人事の人(以下HR)がいきなり「Unfortunately……(不幸なことに)」と話し始めて、言いよどみました。

次に出す言葉を真剣に選んでいるかのような顔つきです。

「最近、あなたの使っていたスナップをつけるマシーンを2階に移して他の人がその作業をしています。あなたの使っている他のマシーンもバルクチームが引き継ぐ予定です。つまり、あなたのポジションはもうなくなっていくのです。そこで、会社としてはあなたに第三工場に移ってもらって別のポジションについてもらいたいと思っています」

ん? 人事異動の話か?

私は先述したように、ポジションがなくなっていく割には忙しい過ぎる今の現状と、今現在会社の期待するエフィシエンシー以上の結果を出していることを語って、どうして移らなければならないのかを問いました。

「もし、そのポジションを受け入れられないようであれば、テンポラリーレイオフ(会社都合の一時解雇)ということになるんだけれども……」

ここでようやく事態が飲み込めました。

ああ、会社は辞めさせたがっているのだと……。

「I am shocked……とてもショックです。会社が僕を必要のないと思っていることに。でも、教えてください。私が何か悪いことをしましたか?」

この問いを発した時に「HRの人も大変だな~」と感じました。悲痛の顔をしているのは彼も同じだったからです。

「あなたは何にも悪いことをしていない。ただ、会社のビジネス上の関係で……」

「もし私が第三工場行きを選んだら、いつから働きに行くことになる予定ですか?それと、妻と一緒に働くことはできますでしょうか?」

第三工場は同じくウィニペグ内にあり、以前私はそこで研修を受けたことがあるため、どのような雰囲気かも知っていますし、家からは車でしか行けないことも知っています。できれば車で妻と一緒に通勤したいのでした。

「4月から第三工場で働くことを選んだら、1週間以内に85%以上のエフィシエンシーに達する必要があります」

「奥さんはあなたよりあとに入社したのですよね。シニオリティー(先任権:勤続年数に応じてポジションが得られやすい)の関係上、奥さんがこのポジションを同じように手に入れることは難しいかと思います」

このように返答されて気づきました。

ああ!これは私だけがレイオフされるのではなく、妻を含め多くの人がレイオフされる可能性になっているのだと……。

この緊迫感ある会議室の雰囲気でショックなことを言われ、さらに『この場で今、第三工場に移るか、レイオフされるか』の二者択一を迫られるわけですから頭が混乱し、感情も追いついてきません。

この状況って何かに似ていると思ったら、余命宣告の医療の現場に似ているのではないかとあとになって気づきました。

思い返せば会議室の私は、アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー・ロス女史が提唱した『死の受容までの五段階』をそのまま踏襲していたように思います。

1,否定・・・・そんなはずはない成果だって出しているのに。何かの間違いだろう?

2,怒り・・・・どうして私が?何か今まで悪いことをしたか?ふざけるな!

3,取引・・・・もっと仕事を増やせたら残れますか?妻だけでも何とかなりませんか?

4,抑うつ・・・気分が落ち込み思考が止まり、感情がなくなっていく。

5,受容・・・・やれることはすべてやろう。それでダメならあきらめよう。

会議室に入って10分後。死に物狂いで自分の気持ちや考えを英語で伝え切り、ようやく私は第三工場行きに同意し、会議室の外に出ました。

すると、同じラインの同僚が待っていて次に会議室に入っていくではありませんか!(あ!やっぱり私だけではなかったんだ)私が会議室に入るときは誰にも会わなかったのに……。

私は最初のほうに呼ばれたようです。その後何人も呼ばれて行きます。

総務の人が肩をたたきにくるその行為は「死神がきた」と呼ばれるようになるのです。

最初の日だけで20名近くの人がレイオフか他工場への移動を迫られたと思います。

呼ばれた人の中には、泣いている人もいましたし、怒っている人もいました。

多くの日本人の特徴として、自分が悪かったのかなとか、もう関わりたくない、しょうがないというようなメンタリティーになりがちですが、上司に質問攻めや暴言を吐いている人もいてカルチャーの違いを感じます。

もっともカルチャーの違いといえば、レイオフという商習慣は欧米では当たり前というのがあります。

日本ではレイオフは一般的ではありませんが、欧米では会社の業績が悪い時は会社の都合で一時的に解雇するのはよくあることだという文化があるのです。(映画やドラマにおいて、レイオフされてすぐ私物を段ボールに入れて持ち、会社を去っていくシーンをみかけますよね)

あまりに当たり前すぎるため、失業保険も受けやすいほどです。(とはいっても今まで受け取ってきた週平均給与の55%(-税)が最高支給額ですが。詳しくは英文のこちらへ)

私は条件付きで残ることになりましたが、他の同僚は「第三工場までバスで1時間近くかかるから無理」という理由でレイオフを選んでいました。このように急に職場を辞めなければならないことに陥るのがカナダで働いていて怖いと思うところです。

 

 

正直に言います。私は「なんであの人たち(エフィシエンシーが明らかに低い人や素行が悪くて有名な人)が残ることができて私がこんな選択に迫られるのだ」と思ってしまっていました。

しかし、翌日の午後、おそらく40人近くの従業員が大広間に呼ばれてドアが閉められました。まるでガス室に送られるような……という表現は失礼かと思いますが、実際、この人たちはその場で、その時に(第三工場のポジションもなく)レイオフを言い渡されてしまったのでした。

昨日まで「自分は呼ばれなかった」とホッとしていた人もいれば、呼ばれた人を慰めていた人も、あっという間に首を切られてしまったわけです。(新人さんが多かった)

翌週にはさすがにもうレイオフも落ち着いてきたかと思っていたら、縫子さん以外のクオリティーチェックの人やメカニック、シッピング(配送)担当、清掃係もレイオフを打診されだし、そしてついには

うちのラインの上司(スーパーバイザー)もレイオフされてしまったのです。

その上司は、怒って、いや悲しんだのか、そのまま職場を放り出して帰ってしまい二度と顔を見せることはありませんでした。

他のラインのスーパーバイザーもレイオフされ、ラインがうまく回らなくなって、しかもまだ残っている人たちも「いつ辞めさせられるだろう」「いつ死神が肩をたたきにくるだろう」と気が気ではなくなっていきます。

沈みゆくタイタニックの船上で、いまだに音楽を奏でている音楽団の一員のような心境といったらよいでしょうか?

もう辞めることが決まっている人は、仕事へのモチベーションが1ステッチ(1縫い目)もありません。

使っていなかった有給のパーソナルデイズを使って休みに入ってしまう人もいまして、この休みの使い方についてはもしレイオフされてしまった際に、会社や組合に詳しく聞いてみるとよいと思います。

 

 

3月26日(火)になると、ネットでカナダグースのレイオフのニュースが流れ始めました。

※写真はCBCニュースから転用。記事内容はこちら

なるほど、確かに今冬は今までにないくらい温暖で、しかも高級ブランドのジャケットを買うにはまだインフレ率が高く、買い控えるよな~とカナダグースの社員でさえ納得してしまいました。

そりゃレイオフになるわけだと思いながらも、記事内にある17%のレイオフという数字に違和感を覚えます。

なぜなら、3月27日(水)になってまた追加で大勢の人がレイオフか他工場への移動を余儀なくされ、中には泣く泣くレイオフを選ぶ人もいて、もうダウンタウン工場の3分の1以上の人員がいなくなってしまうのに17%だなんて……。

残される予定の人たちはこの追加レイオフに唖然としていました。

なにしろ、あまりにダウンタウン工場から他工場に行く人が多いため、

・他工場ではもっとレイオフされた人がいたのだろうと推測できる。

・4月1日月曜日からラインが回るのだろうか?

・こんなに人数が減れば、今の仕事以上のことを要求されるだろう。

・もしかしたら沈みゆく船は残った人たちのほうなのではないか?

などと、疑心暗鬼になっていくのです。

ちなみに私の妻はエフィシエンシーが平均で130%以上(ライン内でも3本の指に入る高さ)なためか、今回のレイオフ対象にはなりませんでしたが「私が生き残って申し訳ない」というようなことを言っていました。

妻と職場が離れてしまうのが残念ですが、私は月曜日から車で第三工場に通勤しようと思います。(今まではバス)

とりあえず生き延びたとしても、もし私が会社の期待通りの働きに応えられないようならあっさりと1週間後にはレイオフされているかもしれません。

これからしばらくは他の仕事を探しながら、失業保険の申請方法などの手続きについても調べていきたいと思います。

同時に、不動産の購入など、いろんなことを予定していたのですが、これを機に再計画を考えないといけないと思っています。

それでは、また。

 

P.S.カナダで私が経験したこのレイオフについてアドバイスや感想を箇条書きで残してみたいと思います。

1,会社に呼ばれた時に「自分以外にもレイオフされる人がいるのかも」と思っていたほうが感情的になりすぎずに話を聞ける。

2,会社の決定事項なので、レイオフを取り消しにしようとあがいても無駄。ユニオン(組合)はあてにできない。

3,残っている有給消化や、EI(失業保険)、リファレンス(紹介状)などについてはHRに確認しよう。

4,レイオフされた人を慰めるのは自分がレイオフされないと確定してからにしようw。

5,「数か月間失業保険をもらってゆっくりしてからジャケット需要が増えていく半年後(秋以降)にポジションに空きがあるか聞いてみよう」という人がいて逞しい生き方だなと感じた。(実際にコロナでレイオフされた時は会社から復職の打診がみんなのところに来ていたし)

6,「レイオフは欧米では当たり前のこと」という理屈は頭では理解できても、実際に自分におこるとその言葉に納得できづらいw。

7,カナダグースのジャケットは本当に保温性に優れているので、暖冬で着ると暑いくらいになるし、暖冬では売れないのがよく分かったw。

8,3月28日の最終日は残ることになった人と他工場に行く人がお互い泣いていた。良い人ばかりで別れが悲しく私も泣きながら同じラインの人たちにハグをしてまわった。

9,こんなレイオフか移動かという人員整理対象に自分がなってもこの職場以外に居心地の良いところが見つかりそうもないことに気づいた。

10,だからこそ、他に収入源を増やしたり、自分を磨いたりしていかなければ……と実感した良い機会になった。

以上

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