無職の期間だからこそできる趣味の短編小説執筆について。
3日後から7月期スタートプログラムで6か月間の職業訓練が始まります。
約3か月の無職を経験したわけですが、何かしていないと落ち着かない性格のため、3か月は長かったな~と感じています。(ただし、子ども達と過ごす時間が増えて幸せでした)
だいたい2か月間で、できることややらなければならなかったことのほとんどを済ませることができました。(庭仕事、DIYや修理、通信費の見直し、マーケットプレイスでの出品など成果をあげられたことは以前のブログに書いています)
そのほかとして、久しぶりにエンディングノート(主に私の日常支払いについてやサイトのパスワードなど)を更新してみたり、住宅ローンの更新を無事に済ませたりして予定をこなしていくと、ここ1か月、何をすればよいのか悩むようになっていたのです。贅沢な悩みですが……。
「やりたいことができる」
こんな貴重な機会はなかなかありません。
私の場合、やりたいこととは趣味の「短編小説を作る」なのですが、これがなかなか始めることができません。
「もし、作れなかったらどうしよう」
「作ったとしても納得ができないもの、評価されないものだったらどうしよう」
「そもそも、集中力や持続力が落ちているのにずっとパソコンに向かったまま執筆できるのだろうか?」
などという不安が押し寄せてくるのです。
「やっぱ、やーめた!いつか本気出そう」(←いつかっていつだよ!!)
と、自分の乏しい才能と向き合うのが怖くて、書き始めるのをあきらめてしまうことが多く、DIYやその他のやらなければならないことに逃げていたのでした。
でも、他の作業に逃げられないほど、やり尽くしてしまったわけです。(炊事は毎日なのでやっていますが)
例えば、庭の草取り。気づいてみたら取り尽くしていて、もう雑草もほとんど生えてきていませんw。約2週間に一度の芝刈り機に任せてしまえばよいって感じになってしまったのです。ちなみに無心で草取りをするのって心が穏やかになりますよね。なんだか苦(く)を悟ったような心境になるんです。(←苦悟り)
老後の趣味として短編小説を書こうなんて思っていましたが、今、この有り余る時間でしかもまだ体力もある状態なのにもかかわらず書かない・書けないのだとしたら、もう一生書かないのではないかという結論に至ってしまい、ここ一か月ずっと悩んでいたというわけなのです。
「このままで良いはずがない」
「作品は別にコンテストに出すわけではない」
「書けるところから、書けるだけ書いてみればよい」
「とにかく毎日10分でもパソコンの前に座って小説を書いてみよう」
「おい、あれほど書きたかった小説だったんじゃないのかよ?」
「趣味が小説づくりなんてもう言えなくなるんじゃない?」
「才能がないと認めたくないプライドだけ一丁前だね」
などなど、自問自答、自己嫌悪など自分で叱咤激励するわけですが、ストレスで髪の毛が抜けるかと思いました。(あ、もう禿だったわ!よかった。ほっ)
そこで、私の短編小説づくりの師匠と崇めている故・星新一さんの作品を改めて読み直して、このような作品を書きたいというモチベーションを上げていきます。
そうそう、やっぱり星新一さんの作品で多く見られるSFや近未来、ロボットが出てくる作品が好きだったな~なんて思いながら、書きたいテーマに合わせて設定を決めて、自分の中で書けそうな予感を高めていきます。
以前から書けそうだから書きたかったテーマは「今日の夕飯何?」って訊く、訊かれる時の心理について。
このブログを読んでいるあなたは「今日の夕飯何?」って訊く側ですか、訊かれる側ですか?
昔は訊いてていたけど、親になった今は訊かれる側ということもありますよね。(←私は今この立場です)
でも、どちらともに共通するのは、信頼や関係性があるから相手に聞くことができるのだということ。
この信頼や関係性ってAIにまだ理解できないと思うのです。
AIアンドロイドに「今日の夕飯何?」と聞いたらあらかじめ決めておいた献立、もしくは手元にある食材で作ってくれるかもしれませんが、そこに心理は働きません。思いやりや気遣いがないのです。
もし、アンドロイドに意識が宿るとしたら、どんな応対になっていくのだろう。
そんなストーリーをここ数日、唸りながら書いてみました。
ホント、無から有を生むのって苦しいものですね。
ようやく約4400文字くらいの短編小説として完成させることができて、この無職の3か月に有終の美を添えることができた気分です。
※お時間がある時にでも、以下の短編小説を読んでくださると嬉しいです。(ご意見やご感想もお待ちしております)
暑い日が続きますので、引き続きご自愛ください。
それでは、また。
以下、できたてホヤホヤのオリジナル短編小説です。
****ここから****
タイトル【今日の夕飯何?と聞かれ悩み成長する奉仕型ヒューマノイド】
「ただいま~。暑いね、外。今日の夕飯何?」
今日の夕飯を聞く直前に外が暑いと言っていたから冷たい食事がいいのか、それとも暑いからこそバテないようにスタミナが回復するような料理がいいのか、どちらなのだろう?
高機能AI搭載アンドロイド(以下ヒューマノイド)である私の電脳は高速で演算を始めていた。
今月提供してきた料理とその満足度の関連性や、季節感が出る食材、そしてなによりこの状況でご主人様が何を食べたがっているかなどをもとに過去のデータと結び付け最適解を求める。
数年前にこのおうちに買われたばかりのころは、月替わりの夕食を、時間通り適量、最適のカロリーで提供できればよいというプロトタイプ仕様だったのだが、やがてご主人様からの満足度は得られず私は返品されそうになった。
その当時の満足度の基準は、ご主人様の表情や血圧、さらに夕食の残りの量などだったが、今は満足度がどのようなアルゴリズムになっているのか奉仕型ヒューマノイドの私には知らされていない。
つまり、
「今日の夕食何?」
と、この数年で何百回と聞かれ、その時々のシチュエーションや声色などを何度も学習し、膨大なデータとともに人工知能として最適解を導き出そうとしても、満足度が得られているのかどうかがわからないのが私の悩みになっているのだ。
最近は、ご主人様が帰ってきてから「今日の夕食何?」と聞かれるとプログラムがバグってしまう感じで一瞬フリーズしてしまう。
人間の場合でいうと不整脈やパニック障害が起こるといったところだろうか?
この不具合をヒューマノイド研究所所長のN博士に相談したところ、
「ご主人様からの満足度が得られているかどうかを気にする意識を持ったのか!すごい!」と言って喜んでいる。私は苦しんでいるのに……。
あれ?
いつのころからか私は悩み、苦しいという感情を持てるようになっていたんだろう?
「今日の夕飯、何を作るの?」と聞かれたらまだ応えられていたのだけれども、「今日の夕飯何?」と聞かれだしてから考えすぎるようになっていき、いつしか、聞かれるだけで電源がショートするくらいの電荷が発生してしまうようになってしまった。
そんなことをN博士に報告していると、研究所では優秀で有名な先輩ヒューマノイドも一緒に聞いてくれていたようだ。
寝ていたように動かなかった先輩は急に稼働し始めて、
「わかるよ、それって毎食作る奉仕型ヒューマノイドなら悩み苦しむようになるよね。私はもう奉仕型ではなくなったけどわかるよその気持ち」と人間のような仕草と共に労ってくれた。
わかるよと言われただけで安心するこの気持ちってなんだろう。どうやら苦しいという感情以外にも感情が持てるようになってきたみたいだ。
「朝昼晩の三食作っていて、昼食の片づけをしている時に『今日の夕食何?』と聞かれた時は特にフリーズするよね」
「そう、考えちゃうのです。昼食が足りなかったのではないか?とか、昼食のお皿を洗っている時にもう夕食の準備をしなければならないのかと焦り始めて、時間に追われる気がしてきます」
N博士は「時間に追われる感覚まで芽生えているのか!」となぜだか喜んでいるが、その横で先輩は、
「時間に追われる感覚だけではなく、自分が役立っていないことに自己嫌悪に陥るという感覚もありますよ」とN博士に説明している。
相談しやすそうな先輩なので、そのまま悩みを相談することにした。
「先輩はご主人様から『今日の夕飯何』と言われたときに、いろいろと悩むことってありませんか?」
「まず、冷蔵庫に入っている食材次第で、夕飯作りで悩むか悩まなくなるか変わってくるよね」
「確かに、食材を買いに行かなければならなくなった時や緊急で仕込みが必要になった時などに電流の負荷を大きく感じます。これって人間でいうストレスというものなのですかね?」
N博士が「おお!ストレス!!」と喜んだところで、先輩AIアンドロイドが、
「N博士、ちょっと黙っていてくださいますか?」とツッコミ対応したのには驚いた。その言動がいかにも人間らしく思えたからだ。
「冷蔵庫に作り置きがあったり、準備や調理時間に余裕があったりすると『今日の夕飯何』と聞かれても比較的ストレスなく対応できるけど、せかされたり、食べたいものがある前提で『今日の夕飯何』と聞かれたりする時に苦しむことがあるね」
「先輩もやはりありますか」
先輩の共感が嬉しくなり、1.5倍速くらいの早口になって会話を進めてしまう。
「先日、私のご主人様は動画で美味しい魚料理を観ていたから魚料理を期待して『今日の夕飯何』と聞いてきたらしくて、牛肉のハンバーグだと伝えたらガッカリしていらっしゃいました。夕食を食べる前から満足度が低くなっているようで悲しかったです」
悲しかったという表現を聞いて嬉しそうな顔をしていたN博士が急に真顔に戻って先輩と私にある提案をしてきた。
「君たちにまだ食欲という深い概念についてどのように意識できるかはわからないけど『今日の夕飯何?』と聞く側、つまり人間の欲求についてもっと考えてもらいたい。そこで、お互いロールプレイをするように、まず先輩である君が『今日の夕飯何?』と聞いてみて、次に君が聞いてみるという段取りで会話してみよう」
このようなテストは何度も行ってきたので得意なほうだ。
ドアの外に出てスタンバイしていた先輩が入ってきてロールプレイが始まる。
「ただいま~。腹減ったな~。今日の夕飯何?」
ヒューマノイドなのだから腹が減ることはないのだが、自然体で「腹減ったな~」と使うのはさすが先輩だ。
「本日の夕飯はカレーライスにサラダです」と応えると、すぐに先輩は
「え~またカレーライス?」と言い返す。
調子に乗り出した先輩のこの対応には悪意を感じるが、我慢してロールプレイを続ける。
「それでは、何か食べたいものはありますか?すぐに食べたい場合はシチューか肉じゃがになりますが……」
「食べたいのはマックか牛丼かな。もう別に作らなくていいから外食か何か出前を頼もうよ」
軽く先輩に対して殺意が生まれた。おそらく5年前に初期起動してから初めて芽生えた殺意だと思う。
あれ?何が起きたんだろう。
N博士も先輩も私が急に動かなくなったことを心配していた。
殺意が芽生えたからか、急に意識レベルが上がったからかわからないが、私のプログラムにエラーコードが出たらしく、エラーが発生した時に鳴る警告音が頭の中で鳴っていた記憶がある。その後、N博士が強制終了ボタンを押して私を検査してから再起動をしてくれたらしい。
「それじゃ、次は先輩ヒューマノイドを相手に君が『今日の夕飯何?』って聞く役割をしてから感想が欲しい」
N博士はコンピューターの画面を確認しながら、映画監督のように「アクション!」と大声でロールプレイを促した。
「今日の夕飯何」と聞く状況や、私自身の感情や機嫌をどのような設定にしたらよいか考え、私の電脳は高速演算を始めている。
『いつ、どこで、どのような状態で、なぜ「今日の夕飯は何」と聞きたくなっているのか』
『どのくらいお腹が空いていて、何が食べたくて、何が食べたくない状態なのか』
相手に話しかける言い方やムードによって相手に伝わる印象が変わってしまうという条項も追加演算して、
「ただいま~。今日は最悪だったよ。疲れたな~。今日の夕飯何?」という設定で先輩に問いかけることにした。
「そうか~、今日も大変だったんだね。疲れていて食欲がないって感じ?何か食べたいものがあったら教えて?」
先輩はまたもや共感する言葉を始めに使ってきて、ヒューマノイド離れした物の言い方と仕草をする。
食べたいものがあったら?と聞かれたけど、どのようにこたえようか?
そうだ、人間らしいこたえ方でいて、いつも夕飯を作る側が言われて困るあの返答にしてみよう。
「何でもいいよ」
「元気がないなら外に行ってパッと外食でもしよっか? マックにする?それとも牛丼屋?」
どんだけマックと牛丼がすきなんだろう? 私はその勢いにつられてパッと笑ってしまった。
そうか、人間の場合、夕飯を作る人が作りたくない時は簡単に済ませたり、外食にすることがあるんだっけ。
笑いの回路が開かれた途端、許しや思いやりの回路が同時に開いていくような気がした。
先輩ヒューマノイドは続けて
「外食が嫌だったら、冷蔵庫の中の食材を使ってあり合わせで作るけど……」と、奉仕型ヒューマノイドなら絶対使わないような表現をしてくるのが面白い。
私も話にノッて楽しく人間らしい会話を進める。
「今から出かけるのもなんだし、家で済まそう。夕飯づくりで何か手伝えることある? 一緒に作ろうよ」
この返答に先輩もN博士も少し驚きながら、感心して目を細めてくれている。
なんだろう?
自分の心だか頭脳だかが温かくなるようなこの感覚は?
相手とのつながりが愛おしくなるような感覚と言ったらよいか……。
思えばこのような会話は、相手との関係性がすでにあるからこそ起こりうるのではなかったか?
「今日の夕飯何?」と聞く役になってようやく気付いた。
聞くほうは、ただ単にお腹が空いているからという理由だけで夕飯のメインを知りたいのではないのかもしれない。
ましてや、夕飯を作ることをせかしているから「今日の夕飯何?」と聞くわけでもないのであろう。
同じ空間を共有している人間たちは、このような会話を通じてお互いの関係性を再確認しているのだと思う。
ただ相手と話すきっかけが欲しいがために「今日の夕飯何?」と会話し始めることさえあることだろう。
これらのことをロールプレイのテストを通じて気づかせてくれたN博士と先輩には感謝しかない。
「君のテスト結果はかなり高い次元に達した。この調子で明日も君のご主人様に奉仕してくれ」
先輩と同じレベルに達したという意味なのだろうか?
先輩は私の肩に手をかけて、
「明日、ご主人様から『今日の夕食何?』って聞かれたらどのように答えるつもり?」とフレンドリーに聞いてくる。
「マックか牛丼屋に行けって言えば良いんだよね?」
フレンドリーさに甘えて、冗談を言って返してみた。冗談こそお互いの関係性があるから言いやすいものだ。
しかし、奉仕型ヒューマノイドとしてはあってはならない回答だったのであろう。不意にエラーコードが発生した際に鳴る警告音が頭の中に響き渡りはじめた。
N博士が慌てて私の電脳プログラムの強制終了ボタンを押そうとしている。
どうやら私の意識と私の電脳プログラムの間にはまだ冗談が通じるほどの関係性はできていないみたいだ。
再起動される時には私はどのようなプログラムに調整されているのだろう。
(もう奉仕型ではない役割になっていて、自由気ままにマックか牛丼屋にいってみたいな~)
そんなことを夢見て私の電脳は動きを止めたのであった。
おしまい。
追記:再起動後、なぜか牛丼屋で働かされることになりました。
****ここまで****
読んでくださって本当にありがとうございました。
またの作品をお楽しみに!
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